第217通常国会が24日に召集され、石破首相は衆参両院の本会議で施政方針演説を行いました。
地方創生を政策の核心に位置づけ「令和の日本列島改造」として5つの柱で強力に進めていく考えを表明しました。また、少数与党として、党派を超えた合意形成に向け与野党が熟議し、国民の納得と共感が得られる政権運営を目指す姿勢を強調しました。
1: 国づくりの基本軸
石破首相は、今年は戦後80年・昭和の元号で100年の節目にあたるとして、これまでの日本の歩みを振り返りつつ新しい価値観への転換を訴えました。人口減少時代を「人材希少社会」ととらえ、誰もが幸福と成長を実感できる「人財尊重社会」を築いていく必要があり、国家主導の「強い日本」や企業主導の「豊かな日本」に続く、国民一人ひとりが主導する「楽しい日本」の実現を掲げました。
2: 地方創生2.0、「令和の日本列島改造」の具体化
石破首相は、「楽しい日本」を実現する政策の核心は「地方創生2.0」であり、「令和の日本列島改造」として日本全体の活力を取り戻すために5つの柱で進めていくと表明しました。
第1の柱は「若者・女性に選ばれる地方」で、若者や女性が地方に魅力を感じ働きやすい環境を整備するため、都市と地方の2地域を拠点とする活動の支援、リモートワークや「ふるさと住民登録制度」の検討、アンコンシャスバイアス解消や男女の賃金格差是正を進める法案を提出、起業支援や最低賃金引き上げを通じて地方経済の活性化を図るとしています。
第2の柱「産官学の地方移転と創生」では、防災庁など政府機関の地方移転を推進しつつ、企業の本社機能移転や地方大学の強化で地域の中核人材の育成を推進すると表明しました。
第3の柱「地方イノベーション創生構想」については、地域発のスタートアップ支援に力を入れ、大学・企業・自治体などが連携してイノベーションを創出する拠点づくりを重視し、農林水産業の高付加価値化や文化芸術・スポーツ振興による観光産業の活性化も図るとしています。
第4の柱「新時代のインフラ整備」に関しては、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支えるインフラを整備し、再生可能エネルギーや原子力などの脱炭素電源、水素などの次世代燃料供給拠点を拡大。AI、半導体分野に大規模投資を呼び込む法案も提出すると表明しました。
第5の柱「広域リージョン連携」では都道府県域を超える自治体連携強化を訴えました。
3: 経済・財政・社会保障
石破首相は「賃上げこそが成長戦略の要」であるとして、物価上昇に負けない大幅賃上げの実現と、2020年代に最低賃金全国平均1500円を目指す考えを示しました。そのために下請法の改正、生産性向上の支援強化、同一労働同一賃金の推進などを図るとしています。また、AIや量子、バイオなど戦略分野への投資を促進し「投資立国」を目指す方針を表明。経済安全保障の観点からは、重要サプライチェーンの国内回帰や技術流出防止、能動的サイバー防御を可能とする法案を提出すると表明しました。財政の健全化について「経済あっての財政」を掲げつつ、早期のプライマリーバランス黒字化の実現を視野に入れ、歳出・歳入両面で改革を続行。社会保障では少子化対策を本格化させ、父母がともに育児休業を取得した場合の給付率引き上げや保育士の処遇改善、さらに地域医療連携の強化や医師偏在対策を推進するとしています。年金制度については将来にわたる安心を確保するとともに、介護や障害者支援などで地域共生社会を目指す方針を示しました。
4: 防衛・治安
石破首相は、防災面で被災者の生活再建と産業復興を強力に支援しつつ、防災監の設置や防災庁の創設に向けた準備を加速し、首都直下や南海トラフなど大規模災害の事前防災を具体化していくと表明しました。治安対策では、減少傾向にある犯罪ながら「闇バイト」による強盗・詐欺、サイバー犯罪、悪質ホストクラブによる搾取など新たな問題に対応するため、捜査手法の強化や防犯カメラ整備支援、法改正などを推進し「世界一安全な日本」の実現を目指すとしています。
5: 外交・安全保障
石破首相は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面しているとし、まずは日米同盟の更なる強化と同志国との連携拡大を優先課題に挙げました。日本の防衛力を抜本的に強化し、シェルター整備など国民保護体制を拡充するとともに、自衛隊の人的基盤・処遇の改善を進める方針です。日米豪印などの多国間枠組みを通じて「自由で開かれたインド太平洋」を強化し、ロシアのウクライナ侵攻には制裁と支援を継続する考えを表明。中国には、主張すべき点は主張しながら協力可能な分野での協力を図る「建設的かつ安定的な関係」構築を重視するとしました。北朝鮮による拉致問題の解決も最重要課題と位置づけ、ASEAN諸国との連携強化や韓国との意思疎通による地域安定にも取り組む姿勢を強調しました。
6: 政治改革
石破首相は、戦後80年という節目を迎えるにあたり、民主主義を支える政治改革が重要課題だと強調しました。政党助成金や企業・個人献金のバランス、公費助成を受ける政治団体としての規律や法制度の在り方を与野党で議論する必要性を提起し、選挙活動を巡る想定されていなかったことの発生を踏まえ、有権者が正しい情報に基づいて投票できる仕組みを整えることが必要と訴えました。約30年の選挙制度を改めて検証し、より幅広い民意を的確に反映する制度改革を探る方針です。
7: 憲法改正等
石破首相は、戦後80年という大きな節目に際し、憲法の在り方について国民的議論を深める必要性を訴えました。国会の憲法審査会で建設的に議論し、国民に案を示すことが国会議員の責務であると強調。あわせて、皇位継承問題では皇族数の確保など喫緊の課題について、早期に「立法府の総意」を取りまとめるよう期待を表明しました。
8: 結語
石破首相は、石橋湛山元首相の「五つの誓い」に触れながら、約30年ぶりの少数与党であっても責任を果たす決意を示しました。与野党それぞれが熟議を尽くし、国民の納得と共感を得られる合意形成を目指す姿勢を強調。多様な意見を生かした政策協議によって国民の期待に応えるべく努力を続けると結びました。
関連リンク
・第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説 – 演説の全文や動画。首相官邸(2025年1月24日)