財務省は2日、「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会の報告書を公表しました。この懇談会は神田眞人財務官を座長とし、学識経験者や民間エコノミストら20名の委員で構成されています。
報告書によると、「日本の稼ぐ力」について、日本の経常収支は2023年度に過去最大の黒字を記録したものの、その内訳を詳しく分析すると楽観視できない状況にあるとしています。貿易収支は赤字基調が続き、サービス収支では特にデジタル分野での赤字が拡大。第一次所得収支の黒字が経常黒字を支えているが、その多くが国内に還流せず海外で再投資されている実態を明らかにしています。
懇談会は日本経済が抱える構造的課題として、以下の6点を指摘しています。
1: 輸出産業の国際競争力低下とデジタル赤字の拡大
2: 鉱物性燃料への輸入依存
3: 産業の空洞化
4: 国内投資の低迷
5: 低水準の対内直接投資
6: 個人金融資産の海外流出
そして、これらの課題に対して報告書は4つの処方箋を示しています。
1: 新陳代謝の促進と労働移動の円滑化による生産性向上
規制改革で企業間競争を活性化し、成長分野への労働移動を促進。最低賃金引き上げにより、高生産性企業への労働移動を誘導し、経済全体の生産性を向上させる。
2: 人的資本への投資、技術開発・活用(再生可能エネルギーや原子力発電を含む)
リスキリングの推進や若手研究者支援など人材育成を強化。再生可能エネルギーの拡大や原子力発電の安全な活用を進め、エネルギー輸入依存からの脱却を図る。
3: 国内投資・対内直接投資の促進
期待成長率の引き上げや事業環境の改善により国内投資を促進。グローバル人材育成や組織のダイバーシティ推進で、対内直接投資の増加を図る。
4: 財政健全化
歳出の合理化・効率化や社会保障改革を通じ、持続可能な財政構造を構築。市場の信認を確保し、金利上昇リスクに備える。
報告書は、必要な改革の実施を怠れば状況は益々深刻化しかねないと警鐘を鳴らす一方で、課題に正面から取り組むことで、これを克服できた場合の伸びしろは大きいとも指摘。日本経済がグローバル市場における競争力を取り戻し、より豊かで持続可能な社会を構築できる可能性を示唆しています。
関連リンク
・国際収支から見た日本経済の課題と処方箋 – 各回の資料や報告書。財務省
関連記事追加
・円安 市場介入を指揮 “令和のミスター円”神田財務官に問う – NHK(2024年7月17日)
・政府 前財務官の神田眞人氏を内閣官房参与に起用 – NHK(2024年8月1日)